アパレルOEMの前にできること – テスト販売・タグ付け替え・段階的ブランド化
「自分のブランドを作りたい」
EC事業をある程度続けていると、この考えが頭をよぎる。他社と同じ商品を仕入れて価格で争うのではなく、オリジナル商品で差別化したい。その気持ちは自然だし、方向としては正しい。
ただ、OEM(自社オリジナル製造)にいきなり踏み込むのは、多くのEC事業者にとってハードルが高い。最小ロットは数百枚単位と言われることが多い(実際の条件は工場との交渉次第で変わる)。デザインと型紙の制作費、サンプルの往復、量産までに数か月、金銭的にもオペレーション的にも、初回OEMは相当な負担だ。
OEMの前に、もっと手軽にブランド化を始められる方法がある。ネーム付け替えだ。
ネーム付け替えという選択肢
ネーム付け替えとは、市場で仕入れた既製品のブランドネーム(襟ネーム)を取り外し、自社のオリジナルネームに縫い替える加工のことだ。洗濯ネームの付け替えや下げ札の取り付けも同時に行うことが多い。
「ネーム」という言葉に馴染みがなければ、手元にある服の首元を確認してほしい。ブランド名が入った布のラベルが縫い付けてあるはずだ。あれが「ネーム」だ。脇にある洗濯表示のラベルは「洗濯ネーム」。一般には「タグ」とも呼ばれるが、アパレルの現場では縫い付けのラベルを「ネーム」と呼ぶ。この記事では業界の呼び方に合わせる。
この作業によって、「ノーブランドの中国製アパレル」が「自社ブランドの商品」に変わる。商品そのものは同じでも、ネームひとつで商品ページの見え方は一変し、リピーターが「ブランド」として認識するようになる。
作業内容は地味だ。元のネームをハサミで根元からカットし、新しいネームを上から被せてミシンで縫い付ける。カット跡は新しいネームで隠れるため仕上がりに問題はない。糸をほどいて完全に外す方法もあるが、手間がかかる分コストが上がる。どちらにしても1枚ずつの手作業だから、枚数が増えるほど人件費がそのまま乗ってくる。
だからこそ、この作業をどこでやるかが利益率を分ける。
広州なら1枚3元で全部やってくれる
広州には、市場での買付だけでなく、検品から加工、梱包、出荷までを一括で行うバイヤー(買付代行)兼加工業者が多数存在する。
こうした業者に依頼した場合、検品、ブランドネームの付け替え、洗濯ネームの付け替え、下げ札の取り付け、OPP(透明フィルム)個別包装——これらすべてを含めて1枚あたり3元(約70円)程度が一つの水準だ。各作業の単価は料金ページで確認できる。
日本国内で同じ作業を外注すると、洗濯ネームの付け替えだけで1枚150円前後から、ブランドネームの縫い付けで1枚100円前後からが実例の水準だ。下げ札の取り付けとOPP包装まで加えれば、1枚あたり300円を超えることも珍しくない。30枚以下の小ロットには、別途3,000円程度の小口手数料を設定している業者もある。
広州の3元(約70円)との差は、1枚あたり230円前後。1,000枚なら約23万円、年間5,000枚なら約115万円の差になる。しかも、広州で加工すれば商品が日本に届いた時点ですでにネーム付け替え済み・個別包装済みの状態だから、国内での作業が一切不要になる。
ただし、業者の質にはかなりのばらつきがある。検品の精度が甘いところ、通関書類に不備があり税関で足止めされるところ、ひどいケースでは荷物が別の国に送られてしまった例もある。長く営業を続けている業者は実績の蓄積があり、日本の税関に必要な書類を揃える能力もある。たいていは、ある程度の日本語でコミュニケーションが取れる。
テスト販売→追加発注→OEMへのステップ
ネーム付け替えは、OEMに至る段階的なステップの最初の一歩だ。全体の流れを整理する。
ステップ1:市場仕入れ+テスト販売。 広州市場から5〜10枚の小ロットで仕入れ、ECサイトに出品して市場の反応を見る。この段階ではネーム付け替えは必要ない。まず「何が売れるか」を確かめる。
ステップ2:ネーム付け替え+ブランド化。 テスト販売で手応えがあった商品について、自社ネームに付け替えて再出品する。商品ページに「自社ブランド名」を冠することで、相乗り出品を防ぎやすくなる。洗濯ネームを日本の法令(家庭用品品質表示法)に準拠したものに変えれば、法的なリスクも下がる。
ステップ3:疑似OEM(同一工場への追加発注)。 売れ筋が固まったら、市場で仕入れた商品の製造元に追加発注をかける。現地バイヤーが工場を辿って直接発注することで、市場のマージンを省いてコストを下げられる。完全なOEMではないが、実質的に同じ品質の商品を安定的に確保できる(追加発注の具体的な進め方は別の記事で詳しく解説している)。
ステップ4:フルOEM。 定番商品のように売れ続けるアイテムが見つかったら、生地の確保から始めるフルOEMを検討する段階だ。ある程度のロット数がまとまって売れるようになってから初めて、生地代やサンプル制作費を回収できる算段が立つ。
多くのEC事業者にとって、ステップ1〜3で十分な差別化と利益率の改善が実現できる。ステップ4のフルOEMは、ステップ3で安定した売上が確認できた商品に限って進めるのが賢明だ。
「全部いきなりOEM」のリスク
OEMに直接飛び込むリスクは、シンプルに大きい。
デザインが売れるかどうかは、出品してみるまで分からない。300枚作って30枚しか売れなければ、残り270枚の在庫を抱えることになる。アパレルは季節性があるから、売れ残りは時間の経過とともに価値が下がる。
ネーム付け替えから始めれば、テスト販売で売れることが確認された商品だけをブランド化の対象にできる。売れなかった商品はノーブランドのまま在庫を処分すればいい。このリスクヘッジが、段階的ブランド化の本質的な価値だ。
OEMは目標であって、出発点にする必要はない。
よくある質問
Q. ネーム付け替えは法律上問題ないのですか?
商品の原産国表示を虚偽にすることは違法ですが、ブランドネームの付け替え自体は合法です。ただし、洗濯ネームは日本の家庭用品品質表示法に基づいた表記が必要です。広州でネームを付け替える際に、日本の法令に準拠した洗濯ネームを同時に取り付けるのが一般的です。
Q. 自社ネームはどこで作れますか?
広州近辺にはネーム、下げ札、OPP袋などの資材メーカーが多数あります。現地バイヤーを通じて発注するのが一般的で、オリジナルデザインのネームも小ロットから制作可能です。納期は業者・仕様・時期によって変わるため、商品の生産スケジュールに合わせて早めに手配しておくのが安全です。
Q. ネーム付け替えだけで本当にブランドとして認知されますか?
ネームだけでブランドが成立するわけではありません。商品写真、商品説明、パッケージング、顧客対応の全体でブランドイメージが形成されます。ただし、ネームがあることで商品に「名前」がつき、リピーターが同じブランドとして再購入しやすくなります。ブランド化の第一歩としてはコストパフォーマンスが高い手段です。

