広州のアパレル卸売市場は200か所以上ある。全部回るのは不可能だ。3泊4日で現地に入っても、飛行機の時間を引くと使えるのは2日半。現地のスタッフ付きで頭をフル回転させても、主要なビルを一通り見るだけでヘトヘトになる。

だから「何を仕入れたいか」で行くエリアを決めるのが先だ。

広州のアパレル市場は大きく4つのエリアに分かれている。安さと量の沙河。トレンドの十三行。品質と信頼の白馬周辺。素材とOEMの中大。どこに行くべきかは、このページを読めばわかる。

広州アパレル市場エリア別ガイドの概略図。沙河・十三行・白馬周辺・中大の4エリアと三元里のバッグ市場エリアの位置関係

沙河エリア — 朝3時から始まる巨大な洪水

沙河は広州最大のアパレル流通拠点。天河区の濂泉路を中心に、卸売ビルが密集している。広州の他のエリアの卸売業者が朝3〜4時に沙河に来て仕入れてから自分の店を開ける。つまり、ここが広州のアパレル流通の「一番上流」にある。

営業時間

早朝3〜4時に取引が始まる。広州の全市場で最も早い。繁忙期は午後1〜2時頃まで、閑散期は午前11時頃に閉まり始める。レディース中心の南城と金馬は朝8時〜午後2時頃が中心。人気商品は午前中に売り切れるので、遅く行くほど選択肢が減る。

主なビル

「南城」と「金馬」がレディースの二大拠点で、多くのバイヤーがまずこの2つに向かう。

金馬服装交易城は地上9階建て。1〜6階が卸売店舗、7〜9階がショールーム。18〜30歳向けのカジュアルな婦人服が中心で、1枚20元台から100元台まで。

中に入ると、まず通路の狭さに面食らう。1店舗の間口は2〜3メートル、奥行き4〜5メートルほどの空間に、壁は天井近くまで2段のハンガーラックで埋まっている。1店舗の壁だけで100点近い商品がぶら下がっている計算だ。店員は店の中ではなく廊下に立っている。バイヤーもその廊下を行き来する。常にラッシュ時の電車くらいの人口密度だ。これが6階分続く。

広州・沙河エリアの店舗内部。2段のハンガーラックに商品がぎっしり並び、通路ではバイヤーが商品を手に取って選んでいる

通路が何本もあるうえに、どの階もほぼ同じ景色なので、一度離れると元の店に戻れない。気に入った店を見つけたら「4階エスカレーター降りて右、3つ目の角を左、5つ目の右手」くらいのメモを取っておかないと、二度とたどり着けない。

南城は金馬と同じ規模の混雑。日本・韓国風の甘い系統のレディース服が多い。

万佳(ワンジア)はデニムとカジュアル服の大型施設。1階はジーンズ系が特に強く、レディース衣料、Tシャツ、スウェット類も多い。店舗数と商品の密度が最も高いフロアで、5点から仕入れ可能、別の商品の組み合わせでもOKな店が多い。2階はTシャツ、シャツ、スウェット、ニット、薄手のアウターなど上半身に着る服が中心。安価な無地Tシャツやベーシックなものを探すなら見る価値がある。3階は通常の卸売フロアというより、ライブ販売や展示スペース、倉庫、商談スペースとして使われている区画が多い。正直なところ、1階だけで体力を使い果たす。

北城はメンズの中心。濂泉路31号、面積44,000㎡、店舗数1,400。螺旋状の通路で1階から5階まで段差なしで歩ける構造になっている。

沙東有利国際服装城 — メンズの新エリア

沙河の中に、比較的新しいメンズの卸売ビルがある。金馬や南城の喧騒とは打って変わって、人が少ない。

ここで目を引くのは、多くの店舗が入口にカーテンをかけて中を隠していること。デザインを盗まれないための対策だ。新しいデザインを出した翌日には、別の店に似たような商品が並ぶ。そういう世界なので、写真撮影も嫌がられる。店の外から見られてもいい商品と、撮影されたくない商品を分けている印象を受けた。

メンズの仕入れで沙河に来るなら、北城とこの沙東有利国際を合わせて見るといい。

広州・沙東有利国際服装城のメンズ店舗。入口にカーテンをかけてデザインを隠す店が多い

仕入れの注意点

沙河の店舗はほとんどが自社生産・自社販売。1日に売れる見込みの分だけ作るスタイルなので、気に入った商品があればその場で押さえるべきだ。翌日に同じ商品があるとは限らない。

物流は便利で、各フロアに運搬業者がいる。荷物を物流会社まで運んでくれて、費用は1回10元程度。荷物は店舗に預けておいて、最後にまとめて運んでもらうこともできる。ただし預け票をなくさないこと。

品質は価格なり。縫製が雑だったり、アイロンをかけずに出荷されるものもある。日本で販売するなら検品は必須だ。

近年は店舗オーナーがスマートフォンのカメラに向かって商品を売るライブ配信が急速に広がっている。広州のアパレルライブ配信の約70%は、インフルエンサーではなく店舗オーナー自身が行っている。かつて卸売専門だった店が小売も兼ねるようになり、外国人バイヤーに対する卸売の優先度が下がっている店もある。

十三行エリア — トレンドの発信地、ただし「元値」を知ってから行け

十三行は広州で最も歴史のあるアパレル卸売エリア。荔湾区の十三行路を中心に複数のビルが集まっている。40年以上の歴史があり、ロシア、東南アジア、中東からのバイヤーが多い。

営業時間

朝6時30分〜午後1時30分。午前中が勝負。

主なビル

「新中国大厦」が中核。地下2階から6階以上まで、フロアごとにジャンルが分かれている。デニム、トレンドの婦人服、大人向け婦人服、ニット、韓国風の高級婦人服、Tシャツ・パンツなど。

メンズの卸売街も周辺にある。ストリートブランド系、韓国風・ヨーロッパ風のメンズなど、通りごとに雰囲気が違う。

注意点:沙河との価格差

十三行の最大の落とし穴は「転売店」の存在。十三行で60元だったカーディガンと同じ商品が、沙河では20元で売られていることがある。十三行の一部の店舗は自社生産ではなく、沙河から仕入れた商品に利幅を乗せて売っている。

だからレディース服を仕入れるなら、先に沙河を見ておくこと。沙河で価格の相場感を掴んでから十三行に行けば、転売店を見抜ける。十三行は「沙河にないデザイン」「もう少し品質の高いもの」を補完的に探す場所として使うのがいい。

白馬・広州駅周辺エリア — 沙河とは別の国

広州駅の南側に、名前のついたビルだけで10か所以上が密集している。このエリアに一歩足を踏み入れると、沙河とはまったく別の世界であることがわかる。

ビルの外に出ると、通りには人とバイク運搬車と荷物の山がひしめいている。卸売市場の看板があちこちに見え、ラッキンコーヒーの店舗がビルの1階に入っている。外は混沌としているのに、ビルの中に入ると空調が効いて、床は磨かれた大理石で、カフェまである。この落差が広州駅周辺エリアの特徴だ。

営業時間

おおむね朝8時〜午後6時。沙河のように早朝に行く必要はない。

主なビル

「白馬服装市場」は広州で最も有名な卸売ビル。9フロアに1,500以上の店舗。地下階はニット・子供服。1〜2階はトレンドの婦人服。3〜5階は婦人服ブランド。6〜7階はメンズブランド。8階は韓国風・ヨーロッパ風の婦人服。

白馬は中〜高級路線で、価格は沙河の数倍になることもある。ただし品質と縫製は明確に上。日本市場向けの品質を求めるなら白馬から見る方が効率がいい。

「紅棉国際時装城」は白馬のすぐ隣。トレンド性の高いメンズ・レディースが並ぶ。

「站西服装城」はメンズ中心。海外貿易向けの服、デニム、スポーツウェア、帽子、靴、ベルト、かばんなどが揃う。

恵美国際(HUIMEI INTERNATIONAL)と周辺の高級エリア

広州駅周辺には、ここ数年で新しいビルが増えている。その中でも恵美国際は外観に「WELCOME, WORLD」と掲げた高層ビルで、1〜2階がレディースのイノベーションデザイン、3〜5階がメンズのオリジナルデザインという構成。

中に入ると、館内の雰囲気は卸売市場というよりセレクトショップに近い。大理石の床、ガラスの手すり、オリジナルデザイナーズブランドの看板が並ぶ。カフェもある。

周辺のビルには韓国向けの高級衣料品を扱う店舗が集まっている。実際に触ってみると、生地の厚みが違う。たまたまセール中で通常200元のTシャツが、サイズ残りで100元。5枚まとめると1枚あたりさらに下がる。多く買えば単価がどんどん落ちていく。日本の感覚だと「元値はいくらなんだ」と原価が気になるレベルの値下げ幅だ。

客層は韓国人バイヤーが多いようで、沙河の金馬や南城のような混雑はなく、落ち着いて商品を見られる。

広州・恵美国際のメンズフロア。ガラス張りの店舗にトレンチコートやジャケットが並ぶ

店内で写真はNGだったので、実際にTシャツを100元(約2,400円)で購入してみて、持ち帰って改めて確認した。プリントの目の部分にラインストーンが埋め込まれていて、ブランドタグも黒で統一されている。生地の厚みは日本の大手アパレルチェーンの定番Tシャツと同等か、それ以上。肩の付け根のステッチは均一で、襟のリブ処理もきれい。袖口のロック処理にやや粗い部分はあるが、耐久性は洗濯を繰り返さないとわからない。

広州で100元で購入したTシャツの品質チェック。襟のリブ処理、ラインストーンの埋め込み、肩のステッチ、袖口のロック処理

三元里・桂花崗エリア — バッグ・革製品の一大商圏

広州駅の北側、三元里大道から桂花崗・梓元崗にかけて、バッグ・革製品の専門市場が30か所以上密集している。1987年に自然発生的に形成された商圏で、経営店舗は6,000軒を超え、年間取引額は100億元以上。「世界の皮具は中国を見よ、中国の皮具は広州を見よ、広州の皮具は三元里を見よ」と言われるほどの規模だ。

中港皮具城は本革バッグの卸売がメインで、ベルト、キーケース、財布、ストラップなどの小物も扱う。白雲世界皮具貿易中心は1,200以上のブランド皮具企業が入居する大型施設。新東豪皮具城、億森皮具城、百壮国際皮具城なども含め、数百メートルの通りに専門市場がひしめいている。

ただし、このエリアも変化の渦中にある。かつて高層階まで卸売フロアだったビルの上階が倉庫やライブ配信スペースに変わり、大口バイヤーが減って市場競争が激化している。広州市は低価格帯の卸売市場を手工定制・ブランド研発・ライブ配信などの新業態に転換する方針を打ち出しており、商圏全体が「量から質」への転型期にある。

アパレルの仕入れが主目的なら、このエリアに丸一日かける必要はない。ただし、バッグや革小物を混載で仕入れたい場合は見ておく価値がある。小ロット(3〜5個程度)から対応する店もあり、アパレルと組み合わせた仕入れの幅が広がる。

このエリアの注意点

白馬周辺は「見本市的」な性格が強い。メーカーが自社のショールームとして使っているケースが多く、サンプルを見て気に入ったらロット数と納期を交渉する流れになる。沙河のように「目の前の商品を現金でその場で買う」とは進め方が違う。

ただし、白馬で見つけた商品と同じものが沙河にもっと安く出ていることもある。必ず複数エリアで価格を比較すること

中大エリア — 服を「買う」場所ではなく「作る」ための場所

中大エリアは完成品の卸売市場ではない。「服を作るための素材」を調達する場所だ。ベテランのバイヤーでさえ、広州最大の生地市場は疲れるから行きたくないと言う。

「広州国際軽紡城」が中核。地下1階が副資材(ボタン、ラインストーン、ブランドタグ、レース、リボン、ゴム、肩パッドなど)、1階から6階が生地。各フロアの両端にタッチパネルの検索端末があり、生地の名称で店舗を検索できる。有人のインフォメーションデスクもある。館内には6つの銀行支店があり、外貨両替にも対応している。

そもそも服飾関係の仕入れで最もやりたくない仕事として「生地探し」を挙げる人は多い。色、素材、厚み、伸縮性、耐久性。選択肢が多すぎて判断が終わらない。だからこそ、生地や副資材の知識がある程度ないと何を見ているのかわからないまま終わる。初めて来る場合は現地のスタッフかアテンドを付けた方がいい。

OEMや自社ブランドの製造を考えている人にとっては本命の場所。逆に、完成品の仕入れが目的なら来る必要はない。

東莞の生地・副資材市場。店舗の前に生地のロールが山積みになっている

なお、広州から車で1時間ほどの東莞市にも「茶山国際布料輔料交易中心」という生地・副資材の市場がある。中大ほどの規模はないが、副資材(ファスナー、ゴム、リボン、ボタンなど)の専門店が並んでいて、中大が大きすぎると感じる場合はこちらの方が回りやすい。

回りきれない。だから「選ぶ」

これだけのビルが密集していて、しかも新しいビルが今も増え続けている。実際に広州で買い付けを行う現地スタッフでさえ、すべてのビルを案内しきれないと言う。理由は2つ。現在取引している市場だけで十分な品揃えがあること。そして、連れて行く顧客が途中で疲れてしまうこと。

1つの店舗で商品を選び、交渉し、数量と価格を決め、書類を記入する。これだけで想像以上に時間がかかる。3泊4日で広州に入っても、飛行機の時間を引くと実質2日半。案内付きで頭をフル回転させても、すべてを見るのは物理的に無理だ。

だから大事なのは「何を仕入れたいか」を事前に決めておくこと。安くて量が欲しいなら沙河。トレンドなら十三行。品質重視なら白馬周辺。素材なら中大。目的を絞れば、限られた時間でも成果は出る。

逆に「とりあえず全部見てから決めよう」では、ヘトヘトになって何も買えずに帰ることになる。

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